交通事故における3つの責任

本日は、交通事故における3つの責任、すなわち刑事責任、行政責任、行政責任について解説します。

~刑事責任~

刑事責任とは、刑罰(懲役、罰金など)を科される責任のことです。

その刑罰は特定の「法律」で規定された「罪」ごとに規定されています。

交通事故で適用されることが多い「法律」は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です。そして、交通事故ではこの法律の中に規定されている「過失運転致傷罪(人を負傷させた場合)」あるいは「過失運転致死罪(人を死亡させた場合)」が適用されることが多いです(二つを併せて「過失運転致死傷罪」といいます)。過失運転致死傷罪は法律5条に規定されており、罰則は7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金とされています。

法律5条

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。(以下、略)。

※自動車の運転上必要な注意を怠り=過失

すなわち、刑事責任では、刑事裁判で有罪とされるとこの罰則の範囲内で刑罰を科されることになるのです。

もっとも、これはあくまで刑事処分が「起訴」となった場合の話です。交通事故といってもすべての事故について起訴されているわけではなく、多くの交通事故の刑事処分は「不起訴」となることが多いです。不起訴となれば刑事裁判を受ける必要はなく、また上記の刑罰を受けることもありません。

「起訴」、「不起訴」の基準はあきらかではありませんが、通常、

①交通事故態様

②被害結果(被害者が死亡したか否か、負傷の場合、治療期間はどの程度かなど)

③被害者との示談の有無

④被害者、遺族の処罰感情

などを総合的に考慮して判断されているものと思われます。

たとえば、単なる前方不注視よりも赤色信号看過、横断歩道上での交通事故の方が悪質と判断され起訴される可能性は高くなります(①)。また、負傷よりも死亡の方が、負傷の場合でも被害者の怪我の程度が大きく、治療期間が長くなればなるほど起訴される可能性が高くなります(②)。また、示談不成立、被害者・遺族感情が強い場合は起訴される可能性が高くなります。これらの事情を単発的に考慮するのではなく、あくまで総合的に考慮して判断されます。もっとも、②について、治療期間が1週間を超えない場合は、他の考慮事情にかかわらず不起訴となる可能性は高くなります。

~民事責任~

民事責任とは損賠賠償責任のことです(民法709条)。損害賠償責任は、当事者に別段の意思表示がない場合は金銭賠償が原則です(民法417条、722条1項)。したがって、損害賠償責任とは、具体的には、相手方に生じた損害について金銭で賠償することをいいます。

民法709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法417条

損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

「損害」には財産的損害と精神的損害(慰謝料)があります。財産的損害には、治療費、入通院交通費などの積極損害と休業損害、後遺障害逸失利益、死亡による逸失利益の消極損害に分けられます。精神的損害には、傷害慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。これらの損害費目に生じた損害につきお金で賠償するのが民事責任というわけです。

もっとも、被害者に発生した損害すべてについて加害者に負担させることは公平ではない場合もあります。そこで、その場合は過失相殺によって損害賠償額が減額されることがあります(民法722条2項)。過失相殺による減額の程度は「過失割合」という交通事故に対する責任の割合によって異なります。

なお、刑事責任のところでも「過失」という言葉が出てきました。しかし、刑事責任においては過失があったかなかったか、つまり「過失の有無」が問題となります。他方で、上記のとおり民事責任では「過失有無」ではなく「過失割合」が問題となります。刑事責任を追及する警察、検察は民事不介入ですから、この過失割合については判断しません。通常は、加害者の保険会社の担当者と被害者(あるいはその代理人(弁護士))との交渉、あるいは交渉でまとまらなかった場合は裁判で(裁判官の裁量により)決めます。

~行政責任(処分)~

行政責任は免許取消し、免許停止などのことです。

皆さんもご存じのとおり、交通違反、交通事故の態様によって違反点数(基礎点数・付加点数)が付けられ、過去の違反歴などが考慮され最終的な違反点数が決まります。

なお、交通事故の違反点数は以下の表のとおりです。

事故結果

 

事故態様

死亡 重傷事故 軽傷事故
3か月以上又は後遺障害 30日以上3か月未満 15日以上 15日未満
専ら違反者の不注意による交通事故 20点 13点 9点 6点 3点
その他 13点 9点 6点 4点 2点

違反歴がない(あるいはないとみなされる)場合、6点以上で免許停止(30日)処分を受けます。

なお、刑事責任と行政責任は全く別物であり、刑事責任で不起訴、無罪となったからといって違反点数、行政処分が科されないというわけではありません。

 

以上