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交通事故における過失割合が決まるまでの流れ|具体例で解説

最終的に受け取る賠償金を大きく左右するのが過失相殺、過失割合です。したがって、過失割合がいかなる流れで決まるのか知っていただきたいと思い、記事にしました。ぜひ最後までお読みいただければと思います。

1.過失割合が決まるまでの流れ

前回の「交通事故における過失相殺、過失割合や留意点を解説」の「3.過失割合は誰が決める?注意点は?」では、過失割合は加害者・被害者が話し合って決める、といいました。そして、具体的には、加害者が任意保険に加入している場合は任意保険会社、被害者が弁護士に弁護活動を依頼している場合は弁護士が話し合いによって決めるということになるでしょう。

そして、交通事故の過失割合はこれまでの裁判例の蓄積などから一定程度類型化することができ、その過失割合を類型化したものをまとめた本が東京地方裁判所民事交通訴訟研究会から出されている「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。

任意保険会社や弁護士は、①当該交通事故が、この本に掲載されているどの交通事故に一致するのかあるいは類似するのかを探し、本に掲載されている交通事故に該当する過失割合を基本の過失割合とします。そして、次に、②当該交通事故に固有の修正要素があるかどうか判断します。そして、最後に、③修正要素があると判断した場合は、①で確認した基本の過失割合に修正要素ごとの加減割合を加味して最終的な過失割合を割り出すのです。

2.過失割合算出までの具体例

それでは、「車(バイク)VS歩行者」による交通事故の中でもわかりやすく典型的な交通事故の①基本の過失割合、②過失割合ごとの修正要素、③修正要素ごと加減割合と最終的に割り出される過失割合についてみていきましょう。

「車(バイク)VS歩行者」でわかりやすく典型的な交通事故といえば

 

信号機のある交差点で、歩行者が横断歩道上を歩行していたところ、直進してきた車と衝突した

 

というケースです(太文字とした部分が変われば下の基本の過失割合も変わっています。たとえば、「信号機のある交差点」が「信号機のない交差点」、横断歩道上が「横断歩道付近」、「横断歩道直近」、直進してきたが「右左折してきた」に変わる場合もあり、それぞれの組み合わせで基本の過失割合も異なってきます)。

① 基本の過失割合について

上記のケースでの①基本の過失割合は

 

歩行者側の信号が「青」で車(バイク)側の信号が「赤」の場合は0:100

歩行者が「赤」で横断を開始、車(バイク)が「青」で進入した場合は70:30

 

などがあります。もちろん、上記以外にも信号機の色によって組み合わせは多数あり、過失割合もそれぞれ組み合わせごとに異なります。

② 修正要素について

では、次に②修正要素についてみていきましょう。修正要素については

 

ⓐ時、時間に関する修正要素:夜間(日没から日の出まで)

ⓑ場所に関する修正要素:住宅街、商店街、通学路など

©人に関する修正要素:児童、高齢者/幼児、身体障害者

ⓓ運転者の運転態様に関する修正要素:車の著しい過失、車の重過失

 

※車の著しい過失とは脇見、スマートフォン等を操作しながらの運転など、車の重過失とは酒酔い運転、居眠り運転など故意に比肩するような過失をいいます。

 

などがあります。そして、たとえば、

 

交通事故が夜間であれば修正要素のⓐ

交通事故の被害者が高齢者であれば修正要素の©

 

が適用されることとなるでしょう。

③ 加減割合と最終的に割り出される過失割合

そして、上記ウ(修正要素ⓐ)の加減割合は「歩行者に0~+5」、上記エ(修正要素©(児童・高齢者))の加減割合は「歩行者に-5~-10」とされています。ウのように歩行者側に過失割合がプラスされるということはその分、車(バイク)側の過失割合はマイナスにされるということです。これは夜間は日中に比べて視認状況が悪くなるため、その分運転者の責任が軽減されると考えられるからです。この理屈からいえば、エの場合は、運転者はもっと注意して運転すべきでその分責任が加算されることになります。

では最後に、ア+ウ、イ+エの過失割合を計算してみましょう。

まず、ア+ウの場合は

 

歩行者0~5:車(バイク)95~100

 

となりますし、イ+エの場合は

 

歩行者60~65:車35~40

 

ということになります。

 

以上のようにして過失割合が割り出されていきます。

 

以上

交通事故における過失相殺、過失割合や留意点を解説

交通事故において被害者が適切な損害賠償額を受け取るためには、過失相殺、過失割合については、必ず知っておかなければならない知識といえます。そこで、今回は、過失相殺、過失割合やその留意点について解説します。

1.過失相殺とは

過失相殺とは損害賠償額(治療費、休業損害、傷害慰謝料、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料など)を算定するにあたって、被害者側にも何らかの責任、落ち度、つまり過失がある場合には、その賠償額を減少させることをいいます。

被害者側にとっては受け入れがたいことかもしれませんが、通常、交通事故では被害者にも何らかの過失が認められることがほとんどです。その場合に、被害者に発生した全損害賠償額について加害者に賠償責任を負わせてしまうのは不公平といえます。そこで、被害者の過失分の損害額については被害者の負担とすることで、被害者、加害者の公平を図るのが過失相殺制度なのです。

2.過失相殺と過失割合

過失割合とは、加害者・被害者の過失(責任)の重さを数値化したものをいいます。最大を10とし、それを加害者・被害者に振り分けるのです。たとえば、加害者10、被害者0とされた場合は、交通事故に対する過失のすべては加害者にあり、被害者にはないことを意味しています。そして、この場合、被害者に生じた損害賠償額が100万円だったとすると、被害者は加害者に対してまるまる100万円を請求できることになります。しかし、前述のように、通常、交通事故では被害者にも何らかの過失(過失割合)が認められることの方が多いです。そして、たとえば過失割合を加害者8、被害者2とされた場合は、被害者にも2割の過失が認められたことを意味しており、被害者に生じた損害賠償額が100万円だったとしても被害者はまるまる100万円を受け取れるわけではありません。つまり、被害者の過失分である2割の額(20万円=100万円×0.2)が100万円から相殺され、受け取ることができる金額は80万円ということになります。

以上より、被害者の過失割合が大きくなれば大きくなるほど最終的に受け取ることができる損害賠償額は少なくなる、ということがお分かりいただけると思います。

3.過失割合は誰が決める?注意点は?

前記「2」からお分かりいただけるように、過失相殺、過失割合は被害者が最終的に受け取ることができる損害賠償額を決める上で非常に重要な要素であることはお分かりいただけたかと思います。では、この過失割合はいったい誰が決めるのでしょうか?

この点、過失相殺について規定した民法722条2項によると裁判官が決めるとされています。もっとも、これはあくまで裁判手続を利用すれば、の話です。通常、交通事故では「交渉→調停→裁判」という流れとなりますから、まずは交渉、調停、つまり加害者・被害者の話し合い、合意によって決めていくことになります。

当初は、加害者が任意保険に加入している場合は、任意保険会社の担当者から過失割合の案を提示されるでしょう。そして、確かに、任意保険会社の担当者は交通事故、交渉のプロですから、提示された過失割合の案もそれなりの根拠、妥当性を有しているといえます。しかし、担当者から提示された過失割合の案をそのまま鵜呑みにするのは危険です。担当者はあくまで加害者側の立場にあること、任意保険会社はあくまで営利企業ですから、少しでも被害者に支払う損害賠償額を抑えようと被害者の過失割合を大きくしているのではないか、ということを常に疑いながら話を聞くべきです。そして、少しでも疑問に思ったら弁護士等の専門家に担当者から提示された過失割合が妥当なのかどうか相談してみるとよいでしょう。

 

                                                                                   以上