「刑事責任」カテゴリーアーカイブ

死亡事故を起こしてしまった友人の話

十年以上前の冬、仲の良い友達が交通事故を起こしてしまい、残念なことに被害者が亡くなられました。被害者のご家族はもちろんですが、加害者となってしまった友人にも立ち直るための時間が必要で、今もまだ自動車の運転ができない状態です。

この記事を書いていいか迷ったのですが、交通事故の加害者がどれだけ重いものを負うのか知っていただきたいと思い、また加害者側は責任をしっかり負うとともに、助けが必要であることも知ってほしく、この記事を書くことにしました。

私はその友人が加害者の方への謝罪を精一杯行っていたことを知っており、今でも大切な友人であることには変わりないので、個人情報には十分配慮したうえで、書いていきます。

 

すぐ警察と救急車を呼んだのに

当時住んでいたのは、さほど大きくない地方都市でした。共通の友人から「〇〇が事故を起こしたって」という話を聞いた時には、まずは車の損害と本人のケガを心配しました。

しかし「すぐ警察と救急車を呼んだんだけど、相手の人がなくなったって」という話を聞きました。もちろん友人本人もケガをしており、病院受診後に一度自宅に帰ることが出来たのですが、食事もとれないくらいのショック状態でした。

警察での勾留

一度は家に戻ることが出来ましたが、その後、自宅に警察官が来て連れていかれ、警察署で勾留されたそうです。

いくぶん落ち着いた後に聞いた話ですが「死亡事故を起こしてしまった人は、自殺をしてしまうこともあるから、自殺防止のためにも警察に泊まってもらう」と説明されたそうです。

担当してくれた人はけっこう優しくて、「けがは痛まないか?」と聞いてくれたり、「くさい飯って言われることもあるけどそれは昔の話で、昔ほどまずくもくさくもない。体のためにも食事はちゃんとたべるように」と言われたことを話してくれました。

「ひどいことはされず、こんなことをした自分に優しくしてくれて、心が痛んだ」と言っていたのが、印象に残りました。

辛かったのは周りの対応

さて、警察の対応は思っていたよりひどくなく、少しほっとしたのですが、「ショックだったのは、△△から『お前のやったことは人殺しだ』と言われたこと。△△はこの事故と関係ないのに」

△△とは、共通の知人です。「死亡事故を起こしたのでは、言われても仕方がない」という意見もあるのかもしれませんが、死亡事故を起こした加害者がすべきことは、今後の償いです。悪口を言ってさらに痛めつけることは賛成できません。

ひどいことを言われながらも、償いの日々は続きます。この話は、機会があればまたお話ししたいと思います。

ひき逃げと当て逃げの違い

ニュースなどではよく「ひき逃げ」、「当て逃げ」という言葉をお聞きになると思います。しかし、両者の内容は違いについて詳しくご存じない方もおられるかと思います。そこで、今回は、ひき逃げと当て逃げの違いについて詳しく解説します。

ひき逃げとは

ひき逃げは「人身事故」を起こしたにもかかわらず、交通事故現場から立ち去ることです。人身事故とは人を死傷させる交通事故のことです。なお、交通事故直後は相手方の怪我の程度が一見して分からない場合も多いです。そこで、はっきりと「怪我をしている」と分からなくても、交通事故の状況などから「怪我をしているかもしれない」という程度でもここでいう「人身事故」に含まれます。また、交通事故を起こした当事者としては「何か物にあたったな」という認識がさえあれば、交通事故現場から立ち去るとひき逃げとされてしまうおそれもありますから注意が必要です。

なお、「ひき逃げ」という罪はありませんし、法律用語ではありません。法津上、ひき逃げとは具体的には以下の義務に違反したこと(そもそも義務を果たさなかったこと、あるいは、行ったことが法律上要求される義務として十分でなかったこと)をいいます。

交通事故を起こした場合に

☑ 車など(自転車などを含む)の運転者は、直ちに車などを停止させる義務

→停止義務

☑ 負傷者を救護する義務

→救護義務

☑ 道路における危険を防止するなど必要な措置を講じる義務

→危険防止措置義務

☑ (交通事故現場で)警察官に交通事故内容を報告する義務

→事故報告義務

なお、救護義務や危険防止措置義務の内容は、負傷者の状況や交通事故直後の道路等の状況に応じて、個別具体的に変わってきます。たとえば、負傷者が意識のない状態で道路に倒れ、他の車などに轢かれる危険性が高い場合は直ちに負傷者を安全な位置まで移動させ、119番通報することなどが救護義務の内容となるでしょう。また、交通量が多い道路であれば三角板を立てる、あるいは自ら誘導するなどして他の車の追突などの二次被害を防止することが危険防止措置義務の内容となるでしょう。

停止義務違反、救護義務違反、危険防止措置義務違反の罰則

 

① 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金

② 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金

 

の2種類があります。両者の違いは、①は、車などの運転者の運転に起因せずとも(運転者に落ち度がなくても)交通事故が起きた場合、②は、車などの運転者の運転に起因して(運転者に落ち度があって)交通事故が起きた場合に適用される、という点です。①よりも②の方が運転者に落ち度がある分、責任が重たくなりますよ、ということですね。

また、事故報告義務違反の罰則

 

3月以下の懲役又は5万円以下の罰

 

です。

 

当て逃げとは

当て逃げは「物損事故」を起こしたにもかかわらず、交通事故現場から立ち去ることです。なお、人身事故か物損事故かは警察の捜査を経てから判明するものです。したがって、あなたが物損事故と思って現場から立ち去っても、後日、警察の捜査によって「物損事故」から「人身事故」に切り替わり、当て逃げの罪ではなくひき逃げの罪に問われてしまうおそれも十分にあります。その際、相手の人が怪我をしているとは思わなかったという言い分はほぼ通用しませんから注意が必要です。状況にもよりますが、「何か物に当たったな」と思ったら、直ちに車を停止させてあたりを確認してみることも大切です。

なお、当て逃げは具体的には

☑ 停止義務違反

☑ 危険防止義務違反

☑ 事故報告義務違反

のことで、停止義務違反・危険防止義務違反の罰

 

1年以下の懲役又は10万円以下の罰金

 

事故報告義務違反の罰則は上記と同様

 

3月以下の懲役又は5万円以下の罰金

 

です。

まとめ

ひき逃げにも当て逃げにも罰則が設けられているとおり、両者は列記とした犯罪です。罪に問われるとあなたの人生を大きく左右することにもなりませんから、くれぐれも運転には注意してください。

 

以上

 

あおり運転に適用される妨害運転罪、罰則は?

道路交通法が改正され(令和2年6月30日施行)、これまでいわゆる「あおり運転」と言われていたものが「妨害運転罪」にあたり、懲役などの刑事罰を科されることになったのはご存知でしょうか?

今回は、

 

・あおり運転に関する改正内容

・妨害運転罪の罰則

 

について詳しく解説してまいります。

 

1.あおり運転に関する改正内容

あおり運転に関する改正内容について、改正前と改正後について解説します。

⑴ 改正前

改正前は、あおり運転そのものを処罰する規定はなく、主として道路交通法に規定されている

 

① 不必要な急ブレーキ(急ブレーキ禁止違反)

② 後方からの異常接近(車間距離不保持)

③ 無理な・急な進路変更(進路変更禁止違反)

④ 左側からの追い越し、無理な追い越し(追い越しの方法違反)

⑤ 前後方からのハイビーム(減光等義務違反)

⑥ 不要なクラクション、ベル(警音器使用制限違反)

⑦ 幅寄せ・急接近など(安全運転義務違反

 

に関する規定が適用されていました。そして、①、②、④、⑦の罰則は「3月以下の懲役又は5万円の罰金」、③、⑤、の罰則は「5万円以下の罰金」、⑥の罰則は「2万円以下の罰金又か科料」でした。また、これらの違反は反則行為でしたから交通反則通告制度の適用される結果、青切符が切られ、反則金を納付すれば手続きが終了する軽微なものでした。つまり、検挙されても、直ちに上記の罰則を科されることはなかったのです。

そこで、改正前は、あおり運転の状況によっては、交通反則通告制度ではなく刑事手続に移行でき、かつ、罰則を科すことができる刑法の暴行罪、あるいは強要罪を適用していました。暴行罪の罰則は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」、強要罪の罰則は「3年以下の懲役」です。

⑵ 改正後

もっとも、あおり運転そのものを処罰する規定の必要性、適用される罰則が軽いなどの批判を受け、道路交通法にあおり運転そのものを処罰する「妨害運転罪」が規定されました。妨害運転罪は道路交通法第117の2第6号(高速自動車道等の場合)、第117条の2の2第11号(一般道の場合)に設けられています。

妨害運転罪が処罰対象とする行為は、上記の①から⑦に加えて

 

⑧ 蛇行、逆走、対向車線はみだしなど(通行区分違反)

⑨ 高速道路での低走行禁止(最低速度違反)

⑩ 高速道路での駐停車(高速道路等駐停車違反)

 

の10個です。

なお、妨害運転罪(一般道の場合)が成立するためには(成立の要件は)、

 

・他の車両等(以下「被害車両」といいます)の通行を妨害する目的があること

・①~⑩のいずれかの行為をしたこと

・①~⑩のいずれかの行為が、被害車両に道路における危険を生じさせるおそれのある方法で行われたこと

 

が必要です。

 

2.妨害運転罪の罰則

妨害運転罪の罰則は、

 

一般道の場合:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

高速道の場合:5年以下の懲役又は100万円以下の罰金

 

です。

一般道の場合の罰則は酒気帯び運転、無免許運転の罰則と、高速道の罰則は酒酔い運転の罰則と同じ、と認識いただければ、今回の改正により、あおり運転に対する罰則がいかに重たくなったのかがお分かりいただけるかと思います。もちろん、交通反則通告制度の適用はなく、直ちに刑事手続きが適用されます

また、一般道の場合の違反点数は25点で免許取消し(欠格期間2年)の行政処分、高速道の場合の違反点数は35点で免許取消し(欠格期間3年)の行政処分を受けます。

 

3.まとめ

以上のとおり、道路交通法にあおり運転そのものを処罰する規定が設けられました。あおり運転が発覚すれば逮捕、刑罰(懲役、罰金)を受ける可能性が高くなりましたので運転には十分注意を払う必要があります。

以上