車は危険な乗物ですから、ひとたび交通事故を起こせば多大な損害を発生させてしまうおそれがあります。そうした場合に備えて保険に加入しておくことはとても大切です。本日は、交通事故における自賠責保険、任意保険と両者の関係について解説します。
1.交通事故における保険の種類
交通事故における保険という場合、通常、自賠責保険(強制保険)と任意保険のことを指します。自賠責保険とは、自動車損害賠償保障法という法律に基づいて保険契約の締結が強制されている自動車損害賠償責任保険のことで、多くの方が車の購入時、車検時に契約しているものと思います。他方で、任意保険とは、保険契約の締結が本人の自由意思に任されている保険です。損害保険料率算出機構が2020年5月に公表した「自動車保険の概況」によると、2018年度の任意保険加入率は74.9%とのことで、多くの方が任意保険に加入していることが分かります。
2.自賠責保険(強制保険)と任意保険との違い
自賠責保険と任意保険の違いは以下のとおりです。
⑴ 契約が義務か義務でないか
当たり前ですが、契約が義務なのが自賠責保険で義務でない、つまり任意なのが任意保険です。なお、自賠責保険契約を締結していない車を運転した場合は「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に、締結している場合でも自賠責保険証明書を車に載せないで車を運転した場合は「50万円以下の罰金」を科されるおそれがありますので注意が必要です。
⑵ 補償範囲が狭いか広いか
次に、補償範囲に違いがあります。すなわち、補償範囲が狭いのが自賠責保険、広いのが任意保険です。具体的には以下のとおりです。
① 物損事故での補償の有無
自賠責保険は物損事故では使えないのに対して、任意保険は物損事故でも使えます。
② 傷害に関する補償の限度額
自賠責保険の場合120万円です。なお、120万円でカバーできる損害費目は、治療費のみならず休業損害、傷害(入通院)慰謝料も含まれます。そして、これらの損害費目の合計額が120万円を超え、任意保険に加入していない場合は全て自己負担です。これに対して任意保険では、対人賠償額は無制限の場合が多く、仮に120万円を超えた場合は任意保険でカバーされます。
③ 後遺障害、死亡による補償の限度額
自賠責保険では後遺障害の場合「4000万円」、(被害者)死亡の場合「3000万円」が限度額です。傷害の場合と同様、限度額を超えた損害額が発生し、任意保険に加入していない場合はすべて自己負担です。これに対して任意保険は無制限の場合が多いでしょう。
④ ご自身への補償の有無
①から③は相手方への賠償金をカバーしてくれるものですが、ご自身の車が破損した場合やご自身が怪我をした場合にもカバーしてくれるのが任意保険(前者は車両保険、後者は人身傷害保険(特約))で、自賠責保険にはこうした保険はありません。
⑤ 示談交渉サービス、オプションの有無
任意保険では、ご自身にいくらかでも過失がある場合は保険会社があなたに代わって相手方と示談交渉してくれます(過失がない場合、保険会社は示談交渉できません)。また、ロードサービスなどのオプションも充実しています。これに対して、自賠責保険には示談交渉サービスやオプションはありません。
3.自賠責保険(強制保険)と任意保険との関係
前記2⑵②・③に関しては自賠責保険と任意保険で重なる部分があります。そこで、まず、相手方に発生した損害については自賠責保険でカバーし、自賠責保険でカバーしきれない損害が発生した場合のみ任意保険でカバーするという流れとなります。
加害者が任意保険に加入している場合は、通常、保険会社が自賠責保険の部分と任意保険の部分の双方を被害者に一括して支払う一括対応が行われています。保険会社は自賠責保険の限度額内で、被害者に対し、治療費、休業損害、傷害(入通院)慰謝料を支払い、それでも足りない場合は任意保険から支払います。自らの負担で支払った分については、後で自賠責保険会社へ求償して回収します。
以上